大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)271号 判決

東京都三鷹市牟礼二丁目一一番一二号

原告

松代秀

右訴訟代理人弁護士

田村恭久

東京都武蔵野市吉祥寺本町三丁目二七番一号

被告

武蔵野税務署長 砂沢日出男

右指定代理人

中村勲

石塚重夫

藤沢保太郎

新川一男

右当事者間の所得税の総所得金額更正決定取消請求事件において被告より提出された本案前の抗弁につき争いが生じたので、当裁判所は、次のとおり中間判決をする。

主文

本件主位的訴えは、適法な不服申立てを経ていないものである。

事実

原告は、本訴において、被告が原告に対し昭和四二年五月一五日付でした原告の昭和三七年分所得税の賦課決定のうち所得金額一二六万三一八円を超える部分および昭和三八年分所得税更正処分のうち所得金額一四二万六、七〇四円を超える部分の取消しを求め、右主位的訴えが許されない場合には、右の限度において各課税処分の無効確認を予備的に求めるものであるが、被告は、原告の右主位的訴えにつき、本案前の抗弁として、所得税課税処分の取消しを求める訴えは、異議の決定および審査の裁決を経た後でなければ提起することができない(国税通則法八七条、七六条、七九条参照)ところ、原告は、前記各課税処分に対し適法な異議申立てをしていないので、該主位的申立ては不適法である、もつとも、原告が異議申立期間を経過した昭和四二年七月一三日に至り前記各課税処分に対する異議申立書と称する書面の写しと異議申立てを審査請求として取り扱うことに同意する旨の書面を被告に提出した事実はあるが、これによつて不服申立て前置の適法な異議申立て要件を欠く瑕疵が治癒されるものでないことはいうまでもないと述べ、証拠として、乙第一号証の一ないし三、第二ないし第四号証、第五号証の一ないし三、第六号証の一、二を提出し、証人宮崎広、南間芳雄の各証言を援用し、甲第九号証のうち三鷹市の受付印の部分の成立は認めるが、爾余の部分の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認める、と答えた。

原告は、被告の右抗弁事実中、その主張のころ異議申立書と題する書面の写しと異議申立てを審査請求として取り扱うことに同意する旨の書面を被告に提出したことは認めるが、その余の事実はすべて否認すると述べ、なお次のとおり付陳した。すなわち、原告は、本件各課税処分に対し昭和四二年六月一〇日異議申立書を被告に宛て普通郵便で発送したので、同書面は、異議申立期間内に被告に到達したものというべきである。仮りに、適法な異議申立がなかつたとしても、同年七月初めごろ異議申立書が被告に到達したか否かについて紛議が生じた際、両者協議の結果、本件各課税処分に対し違法な異議の申立てがあつたことを前提として、同申立てを審査請求として取り扱い、国税局長の裁決に委ねる旨の話し合いがまとまり、被告主張のとおり、原告が異議申立書の写しと異議申立てを審査請求として取り扱うことについての同意書および歎願書と題する書面を被告に提出したのであるから、これによつて適法な異議申立を欠く瑕疵は、治癒されたものというべく、本件主位的訴えは、不服申立て前置の要件に欠けるところはないと述べ、証拠として甲第一ないし第九号証を提出し、証人川口秀雄の証言および原告本人尋問の結果を援用し、乙第四号証、第五号証の一ないし三、第六号証の一および同号証の二のうち肩書部分の成立は不知、爾余の部分の成立ならびにその余の乙号各証の成立は認める、と答えた。

当裁判所は、原告の主位的訴えが不服申立て前置の要件において欠けるところがないかどうかの点に限り、審理を遂げた。

理由

原告は、昭和四二年六月一〇日本件各課税処分に対する異議申立書を作成して同日これを普通郵便で被告に宛て発送したと主張し、甲第四、第五号証(原告が同年七月一三日被告に提出した各異議申立書と題する書面の写しである乙第一号証の二、三と同一)および証人川口秀雄の証言、原告本人尋問の結果には右主張にそう旨の記載、供述があるが、該記載、供述は、後掲各証拠に対比してたやすく揩信することができず、他に右主張事実を肯認するに足る証拠がなく、却つて、証人南間芳雄の証言により真正に成立したものと認める乙第六号証の一、二および証人宮崎広、南間芳雄の各証言によれば、武蔵野税務署においては、異議申立書が郵送されて来た場合、総務課総務係でこれを受け付け、関係帳簿(収受簿又は整理簿)にその旨を記載したうえで、異議申立書を所得税課へ回付し、同課においても異議申立てに関する事務整理簿に回付を受けた旨を記載し、もつて、郵送文書の受理とその証明に遺憾なきを期しているが、同署の総務課総務係、所得税課が備え付けの関係諸帳簿には、本件各課税処分に対し原告から異議申立書の郵送、回付を受けた旨の記載がなく、その他同署に保管されている原告に関する記録を精査しても、右の郵送、回付を受けた事実を見い出すことができないこと、当時同署においては郵便物の不到着等による紛議の生じた事例のなかつたことが認められ、また、当時の郵便事情に鑑みれば、郵便物を発送すれば、特段の事情のない限り、それが相当期間内に宛先へ到達するものと推定すべきであるところ、原告において右特段の事情につきなんらの主張立証をもしていないことに徴すれば、むしろ、原告は本件各課税処分に対し異議の申立てをしなかつたものというほかはない。

そして、前叙のごとく、本件各課税処分に対し適法な異議の申立てがなされたことを認めるに由ない以上、仮りに、異議申立期間経過後、原被告間において原告主張のごとき内容の話し合いがまとまつたとしても、また、原告がその主張のごとき各書面を被告に提出したことは、当事者間に争いのない事実ではあるが、これによつて不服申立て前置の要件を欠く瑕疵が治癒されるものでないことは多言を要しないところであり、他に本件各課税処分に対する異議の決定および審査の裁決を経ないことにつき正当な理由があるものと認めるに足る資料はない。

よつて、本件各課税処分の取消しを求める原告の主位的訴えに関する右中間の争いについて、主文のとおり中間判決をする。

(裁判長裁判官 渡部吉隆 裁判官 園部逸夫 裁判官 竹田穣)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例